心臓の障害
1.認定基準
心疾患による障害の程度は、呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、浮腫等の臨床症状、X線、心電図等の検査成績、一般状態、治療及び病状の経過等により、総合的に認定するものとする。
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
認定の時期以降少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 |
認定の時期以降少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
3級 |
認定の時期以降少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの |
2.認定要領のポイント
【1】心疾患とは、心臓だけでなく、血管を含む循環器疾患を指すものである。心疾患による障害は、弁疾患、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、難治性不動脈、大動脈疾患、先天性心疾患に区分する。
【2】心疾患の障害等級の認定は、最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を評価することである。この状態は虚血性心疾患や弁疾患、心筋疾患などのあらゆる心疾患の終末像である。慢性心不全とは、心臓のポンプ機能の障害により、体の末梢組織への血液供給が不十分となった状態を意味し、一般的には左心室系の機能障害が主体をなすが、右心室系の障害も考慮に入れなければならない。左心室系の障害により、動悸や息切れ、肺うっ血による呼吸困難、咳、痰、チアノーゼなどが、右心室系の障害により、全身倦怠感や浮腫、尿量減少、頸静脈怒張などの症状が出現する。
【3】心疾患の主要症状としては、胸痛、動悸、呼吸困難、失神等の自覚症状、浮腫、チアノーゼ等の他覚所見がある。臨床所見には、自覚症状と他覚所見があるが、他覚所見は医師の診察により得られた客観的症状なので常に自覚症状と連動しているか否かに留意する必要がある。重症度は、心電図、心エコー図・カテーテル検査、動脈血ガス分析値も参考とする。
【4】検査成績としては、血液検査、心電図、心エコー図、胸部X線、X線CT、MRI等、核医学検査、循環動態検査、心カテーテル検査等がある。
【5】肺血栓塞栓症、肺動脈性肺高血圧症は、心疾患による障害として認定する。
【6】心血管疾患が重複している場合には、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度を十分考慮して総合的に認定する。
異常検査所見表
区分 |
異常検査所見 |
A |
安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの |
B |
負荷心電図(6Mets 未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの |
C |
胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの |
D |
心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの |
E |
心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの |
F |
左室駆出率(EF)40%以下のもの |
G |
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml相当を超えるもの |
H |
重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの |
I |
心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの |
一般状態区分表
区分 |
一般状態 |
ア |
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ |
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ |
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ |
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
3.各疾患別のポイント
弁疾患
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
人工弁を装着術後、6ヶ月以上経過しているが、なお病状をあわらす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
人工弁を装着したもの |
異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
心筋疾患
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
難治性不整脈
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
ペースメーカー、ICDを装着したもの |
異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
大動脈疾患
障害の程度 |
障害の状態 |
3級 |
胸部大動脈解離(Stanford 分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの |
先天性心疾患
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
異常検査所見が2つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
Eisenmenger化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
異常検査所見のC、D、Eのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
肺体血流比1.5以上の左右短絡、平均肺動脈収縮期圧50mmHg 以上のもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
重症心不全
心臓移植 |
1級 |
人工心臓 |
1級 |
CRT(心臓再同期医療機器)、 CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器 |
2級 |